テンシンハマグリ通信

匿名で寄せられたいろいろな方々の寄稿文を中心に、オールジャンルで書いてます。(※ 編集長は、「表現に問題がないか」のみチェックし、独自の裏取りは行っていません。)

手数料を無料化した楽天証券の次の一手を考える

 このシリーズ、「商品・サービス改善提案」では、ユーザーにとっても経営・株主サイドにとっても取引業者にとってもメリットのある、「みんながハッピーになる商品やサービス」を考えていきます。

 2023年10月2日の取引から、楽天証券は、国内株の現物取引と信用取引の手数料が完全無料になる「手数料ゼロコース」をスタートしました。
現在楽天証券には以下の手数料コースがあります。

  • 手数料ゼロコース: 国内株の現物取引と信用取引の手数料が無料になるコース
  • いちにち定額コース: 一日の約定代金の合計額に応じて手数料が決まるコース
  • 超割コース: 一回の注文に対して手数料が発生するコース
  • 超割コース(大口優遇): 上記「超割コース」のうち、一定の条件を満たすと手数料の値下げやポイント還元率の引き上げがあるコース

 ※ 手数料ゼロコースでは、単元未満株式の取引については手数料は無料ですがスプレッドがかかります。その他詳細情報は楽天証券のページの手数料コース一覧のページからご確認ください。

 楽天証券は、預かり資産が15兆円を越えています。
口座の開設数も2023年4月には900万を越えたと発表しています。(「楽天証券、証券単体で国内最多!証券総合口座数 900万口座達成のお知らせ | 楽天グループ株式会社」)
これまでは、「ネット証券の中で何位」という言い方をしていましたが、口座数に関しては「国内の全ての証券会社」の中で堂々の第1位です。
このようにして、楽天証券のユーザーも増えてきたので、株の売買をする時に、楽天証券のユーザー同士で取引をすることができるようになってきました。
楽天証券のユーザー同士で株の売買をする際には、内部で処理すれば良いだけなので、コストを削ることができ、手数料の無料化に踏み切れたと説明しています。
それで、手数料ゼロコースに申し込むには、複数の取引所から最も有利な価格で売買できるSOR注文と、楽天証券が提供する社内取引システムのRクロスの利用同意が条件になっています。

 この手数料無料化は、ユーザーにとってはありがたい話です。
特に、短気で株の売買をして、いわゆる「1円抜き」で稼いでいるような人にとっては、手数料の負担というのは無視できないものだったと思います。
ユーザー側からすると、手数料ゼロコースに特にデメリットはないので、他の手数料コースの方は手数料ゼロコースに変更されるのが良いでしょう。

楽天証券の次の一手を考える

 さて、ここからは楽天証券の経営・株主側の視点になりますが、手数料を無料化した楽天証券は、今後どのようにして成長していけば良いのでしょうか。
まずはコストを減らす事を考えると、外部への発注を減らして、Rクロスで売買が成立する比率を高めていく必要があるでしょう。
欲を言えば、全ての取引をRクロスで成立させたいくらいです。
それは無理だとしても、やはりRクロスで売買が成立する比率を高めていきたいものです。
そのためには、引き続き口座数や預かり資産を増やしていくことが重要です。

 例えば、「乗り換えキャンペーン」と称して、他者から楽天証券に株式を移管すると、一株につき1ポイント、上限1万ポイントの楽天ポイントがもらえる、といったキャンペーンを展開するなどです。(過去24か月以内に楽天証券から他者に移管している人は対象外とする、などの条件を付ける。)
口座の新規開設者だけでなく、すでに楽天証券に口座を持っている人でも、他の証券会社から移管するとポイントがもらえるようにすれば良いのです。

 また、楽天証券と連携している楽天銀行でも、口座残高を増やす工夫をすると良いでしょう。
例えば、毎月自分名義の他行口座から入金すると、その入金額に応じて楽天ポイントがもらえるなどです。
自分名義の口座間でお金をただぐるぐる回されないように、一か月間の合計入金額ではなく、一回に振りこんだ最大の入金額を基準にポイント付与するのが良いでしょう。

 さらに、多言語対応を進め、日本国内に居住する外国人、日本語話者ではない人が口座を作りやすくすること、法人の利用を促進することも重要です。

 このようにして、引き続き楽天証券の口座数と預かり資産を増やしていくことを目標に取り組むのが良いでしょう。

 次に、Rクロスの取引可能時間を大幅に延長することです。
午前6時から23時半とか、あるいはもっと延長して、0時05分から23時55分までの「ほぼ24時間取引」を可能にするなどです。
土日・祝日・年末年始も取引可能にするのです。
システムメンテナンスはむしろ東証が開いている時間に行えば良いのです。(例: 平日の9時05分から14時55分など)
このようにして、「ほぼ24時間取引」を可能にするなら、他のネット証券との差別化を打ち出すことができ、手数料の安さだけでは魅力を感じなかった人も、楽天証券に乗り換えてくれるかもしれません。
(手数料の安さだけでは、移管手続きが面倒で楽天証券にわざわざ乗り換えようとまでは思わない、という人もそれなりにいるでしょう。そういった人たちも、取引時間の拡大は魅力に感じるはずです。)

 「ほぼ24時間取引」を実現するにはスタッフの増員も必要でしょう。
利益90億円の楽天証券に、スタッフをどこまで増員する余力とやる気があるか分かりませんが、Rクロスの取引時間の拡大は、試す価値のあるチャレンジだと思います。

「手数料ゼロ」より「100%ポイント還元」が良かったかもしれない

 楽天グループのサービスの利用を促すという意味では、「手数料無料」より、手数料を取ったうえで「100%ポイント還元」したほうが良かったかもしれません。
今言ってももう遅いのですが、ある程度手数料を取ったうえで全額楽天ポイントで還元するなら、楽天グループのサービスの利用を促すことができます。
さらに、「受け取るポイントを通常ポイントではなく期間限定ポイントに変更すると、付与ポイントが1%割増しになります」などと言って、ユーザー側で、通常ポイントで受け取るか期間限定ポイントで受け取るかを選べるようにしても良かったと思います。
期間限定ポイントは用途が限られており、楽天市場など楽天グループが直接提供するサービスで利用される可能性が高くなりますので、楽天グループにとってもメリットがあるはずです。
ただ、中には期間限定ポイントだと使い勝手が悪くて困るという人もいるでしょうから、ユーザーが通常ポイントで受け取るか期間限定ポイントで受け取るかを選べると良いでしょう。

投資信託や外国株などの宣伝も引き続き行っていく

 国内株の取引手数料を全て無料化してしまうと、今後楽天証券が直接手数料収入を得られるのは、投資信託や外国株などに限られます。
そういった商品の宣伝を引き続き行っていくことも重要でしょう。

「ほぼ24時間信用取引」の実現が理想

 私としては、信用取引が年中できるのが理想だと考えています。
とはいえ、これは楽天証券だけでできることではありません。
法令上、証券会社が社内取引システムで信用取引のサービスを提供することはできないからです。
(お金を貸している証券会社自体が信用取引の取引システムを提供することは利益相反に当たると見なされている)

 これに関しては、楽天証券はライバルであるSBI証券やマネックス証券、松井証券、DMM.com証券などと協力して、「ほぼ24時間信用取引ができる共通のシステム」を作っても良いように思います。
東証は、2024年11月から取引時間の延長を行いますが、市場を巡る環境変化や多様化する投資家のニーズに対応するとともに、市場利用者の利便性や国際競争力、レジリエンスをさらに高めていく観点から実施すると言っている割には、たったの30分の延長です。(「取引時間の延伸の正式決定について | 日本取引所グループ」)
これでは話になりません。

補足: 楽天証券の「手数料ゼロ」が他の証券会社に与える影響

 楽天証券の国内株の手数料無料化は、やはり国内株の手数料が無料になる、SBI証券の「ゼロ革命」を意識したものでしょう。
両社は、預かり資産も多く、ネット証券としてコストをある程度抑えることもできますので、このような取り組みができるものと思います。
今後この二社の競争は激化していくでしょう。

 野村証券などの古くからある証券会社の場合、手数料が高かったとしても、そもそも顧客の多くはパソコンやスマホの操作に不慣れな高齢者だったりもしますので、客離れが起きず、やっていけているという現状があります。
問題は、口座数や預かり資産がそれほど多い訳ではない「弱小ネット証券」です。
こういったところは、楽天証券やSBI証券の手数料無料化の影響をかなり受ける可能性があります。
他の証券会社と合併しますというところも出てくるかもしれません。
それ以上に私が心配しているのは、無理に手数料を値下げしたりして十分なサービスが提供できなくなり、大規模なシステム障害によって顧客に損害を与えるといったケースです。
証券会社の情報もいろいろ公表されていますので、極端に社員数が少ないところなどは利用しない方がいいかもしれません。

JR東日本の「イノベーション自販機」は失敗だったのか-その可能性を活かすために出来たかもしれない事

 2023年9月末をもって、JR東日本のエキナカを中心に設置されている「イノベーション自販機」の一部のサービスが幕を閉じた。
自販機自体も、順次撤去されていくという。
この「イノベーション自販機」はJR東日本グループのJR東日本クロスステーションが展開する飲料自動販売機で、他人に飲み物をプレゼントして、プレゼントされた側がスマホのQRコードをかざして飲み物を受け取るなどの機能があった。*1
また、スマホアプリを通して飲み物をまとめ買いしたり、定額を支払えば毎日飲み物が受け取れる「飲み物のサブスク」というサービスもあった。
この「新しい自販機」の登場は、一部の経済誌でも取り上げられ、私も先進的な取り組みとして注目していたが、情報通や新しい物好きという訳ではない「普通の人たち」にまで広く浸透することはなく、ポテンシャルを活かしきれずに、サービス縮小へと追いやられてしまった。
10月6日配信のねとらぼの記事「JR東の“タッチパネル自販機”がサービス終了、順次撤去発表で惜しむ声 終了の理由を聞いた」によると、担当者はこのサービス終了について、当社が定める機体運用年数に達することから、一定の役割を終えたという判断をしたと語っており、決してアイデアや取り組み自体が悪かったとは言っていない。
ただ、私の感覚では、イノベーション自販機の可能性を活かしきれなかった面はあると思うし、「一部の人」から「万人」にヒットするまでの臨界点を越えられなかったとも感じる。

 商品やサービスや技術を普及させるためには、それがヒットする臨界点を突破しなくてはいけない。
例えば、1990年代末に渋谷や原宿でICカード決済のシステムを導入したが、その時にはメディアで取り上げられたものの、使える場所が限られていることもあり、広く普及することはなかった。
ICカード決済が「不通の人たち」にも広く普及したのは、2001年にJR東日本のSUICAが登場し、2004年にSUICAが電子マネーとしてコンビニ等で使えるようになってからのことだ。(ビューカード会員限定で2003年に試験的に電子マネーサービスを開始していた。)
やはり、商品やサービスや何かしらのテクノロジーが一般に普及するには、臨界点と言うものがある。
イノベーション自販機についてはどうか。
私の観察では、「知っている人は知っているけれど、だれもが知っているわけではない」という印章を受けた。

 イノベーション自販機の可能性をもっと活かすため、例えばどんなことができただろうか。

 宣伝を積極的に行うというのは重要で、知名人が出るラジオ番組に番組内広告を出してリスナーにドリンクプレゼントをする、といったことができたかと思う。
(新しい技術は、視聴者・聴取者と出演者との親密度が高いラジオの方がテレビよりも受け入れられやすい傾向にある。)

 二つ目に、ドリンクプレゼントについては改良の余地があった。
私も、ネット上で知りあった人(住所地も本名も知らない)にイノベーション自販機でドリンクプレゼントをしたことがあるが、まずは相手に、acure passという専用アプリを入れてもらい、受け取り可能な最寄りの自販機を探してもらい、その中からほしい飲み物を選んで連絡してもらう必要があった。
こちらで勝手にコーヒーを選んでプレゼントしても、受け取った人が「私カフェインがダメなんです」とか「近くの自販機のラインナップにないんです」ということでは受け取ってもらえないからだ。
そこで、ドリンクプレゼントは、商品を指定するのではなく、アマゾンギフト券のように、「200円分プレゼント」とか「500円分プレゼント」ということにして、受け取った人が商品を選べるようにしたほうが良かったと思う。
専用のリンクから受け取り手続きを行うと、受け取った人にポイントが不よされて、そのポイントを使って数回にわたって飲み物をゲットできるという仕組みだ。

 また、人にもよるが、アプリをインストールすることに抵抗感がある人もおり、少なくともドリンクの受け取りに限っては、LINEなど、もっと普及率が高いアプリにQRコードを表示させ、専用アプリをインストールしなくても受け取れるようにした方が良かった。
そのうえで、イノベーション自販機をユーザーから他の人たちに広めてもらうため、プレゼントの送り主に特典があるキャンペーンを行っても良かった。

 イノベーション自販機は、自販機本体ではなくアプリの方に機能を搭載することで、後からアプリのアップデートで機能を追加していくことができた。
これからが楽しみ、というところでのサービス終了を、筆者は残念に感じている。
テクノロジーそのものにもアイデアは必要だが、テクノロジーを宣伝するアイデアやテクノロジーを活かすアイデアも必要だ。
JR東日本クロスステーションの担当者は、具体的な事は未定であるものの、今後も自販機を始めとする魅力あるエキナカづくりに取り組んでいくと語っているため、今後に期待したいところだ。

*1:2018年3月までは、JR東日本の子会社であるJR東日本ウォータービジネスが展開しており、その後同社は株式会社JR東日本リテールネットの子会社となり、2021年4月には親会社に吸収合併され、現在ではJR東日本クロスステーションの社内カンパニーである「ウォータービジネスカンパニー」が事業継承している。

編集長からのご挨拶

 テンシンハマグリ通信、編集長のリンです。
このブログでは、匿名の寄稿文を順次掲載してまいります。
いろいろなジャンルの記事が掲載されますので、お楽しみいただければと思います。
(2023年10月16日以降、本格的に更新していきます。)
どうぞよろしくお願いいたします。